読み方ガイド


ローマンブリテン四部作

 サトクリフの代表作といわれています。ローマ統治時代のブリテン島を舞台とした作品で、その中心を担っているのは、あるローマ軍人の一族です。

 この作品群を読むときは、シリーズ1作目にあたる「第9軍団のワシ」から読むことをお勧めします。歴史上の年代から言ってももっとも古い時代にあたるため、以後の作品を読み進めていきやすいでしょう。また、作品の構成がしっかりしていて、サトクリフの中心テーマが色濃く打ち出されているため、サトクリフの雰囲気をつかむ上でもよい作品なのではないかと思います。

 「銀の枝」は「第九軍団のワシ」の次に書かれた作品で、「第九軍団のワシ」と深いつながりを持っています。この作品では、「第九軍団のワシ」でマーカスとエスカが見つけ出してきた「失われたワシ」が、大切な役割を担って再登場します。また、「第九軍団のワシ」のマーカスと「銀の枝」のフラビウスたちが同じ一族であることを示唆する「イルカの指輪」も出てきます。

 「ともしびをかかげて」はローマン・ブリテンの終焉を描いた作品です。ローマ軍がブリテンからの撤退を決定したとき、ローマ軍人アクイラは、じつは自分がローマ人であるだけでなく「ブリテン人」でもあったことに気づき、軍を脱走してブリテンに残ります。この作品はまた、「伝説になる前のアーサー王」を描くものであり、「落日の剣」の前日譚にあたるものとなっています。「落日の剣」を読む前に「ともしびをかかげて」を読み終えておくことを強くお勧めします。

 「辺境のオオカミ」は、扱っている時代そのものは「ともしび~」よりも前なのですが、前三作からずいぶん年月を隔てて書かれた作品です。また主人公の境遇もやや異色で、(出世街道からそれた辺境の地方軍団に所属しているとはいうものの)正規軍の軍人さんです。マーカスは退役軍人、フラビウスやジャスティンは地下活動家(?)、アクイラは脱走兵(のちに私兵?)と、ある程度自由に身の振り方を決められる立場にいたのですが、「辺境のオオカミ」のアレクシオスは軍規によって縛られた存在であり、それゆえの悲劇や葛藤を経験することになるのです。

 「ローマン・ブリテン4部作」の読み進め方ですが、歴史上の時間軸に沿って読むよりは、作者の執筆した順に従って読んだほうがよよいように感じます。また「第九軍団のワシ」と「銀の枝」、「ともしびをかかげて」と「落日の剣」(「落日の剣」はローマン・ブリテン四部作には数えられていません)がそれぞれ正続の関係にありますので、続けて読むとよりいっそう楽しめるのではないかと思います。

イルカの指輪の継承

 ローマン・ブリテン4部作は、あるローマ軍人の一家系を追った作品になっています。

 「第九軍団のワシ」のマーカス・フラビウス・アクイラは、「銀の枝」のフラビウスや「ともしびをかかげて」のアクイラの先祖にあたります。この一族には代々「イルカの印章のついたエメラルドの指輪」が受け継がれており、それが子孫であることを示すひとつの指標ともなっています。

 この「イルカの一族」は「落日の剣」にも登場します。イルカの指輪がアクイラからその息子フラビアンへ、そしてさらにその息子へと受け継がれていくのです。

 指輪の継承はさらに続きます。

 ローマン・ブリテンの記憶も遠ざかった時代に、あのイルカの指輪と思しきものを手にした女性が登場します。「剣の歌」のヒロイン、アンガラドです。軍人の家系のアクイラ一族よりも「運命の騎士」のアンクレットを髣髴とさせるような雰囲気を持つ黒髪の「魔女」アンガラドですが、彼女もまた、「イルカの一族」に連なる者であったようです。彼女が「イルカの刻まれた、傷んだ緑の石の指輪」を所持しているという描写を読んで、思わずニヤリとされた方も少なくないのではないでしょうか。

 Sutcliff Wikiにおいて、この「イルカの指輪」を継承する人々が登場する作品群を"The Dolphin Ring"というシリーズとしてまとめてありました。

"The Dolphin Ring"は、時代順に並べられると以下のようになります。

  1. 第九軍団のワシ
  2. 銀の枝
  3. 辺境のオオカミ
  4. ともしびをかかげて
  5. 落日の剣
  6. 夜明けの風
  7. 剣の歌
  8. シールドリング

 さいわいなことにすべての作品が邦訳されていますので、指輪の継承を追いながら日本語で読み進めていくことができます。